第3回 黄色きもの


今、我が家の黄色きものは、カナリアのぴいいちろうである。
この正月に、夫の友人が結婚祝いだといって連れてきた。
生き物を突然プレゼントという、大胆な彼の行動に一瞬ひるんだ私たち夫婦であったが、せっかくのプレゼント「わーっ!ありがとう!」と喜んで頂戴した。
しかし、ペットに名前をつけるという最高の楽しみは与えられなかった。ゴッドファーザーになれなかったよ。
彼は彼自身の名前に似た響きをもつ「ぴいいちろう」という名をすでにつけてしまっていたのだ!
「なんと!」

カナリアは雄がよく鳴き、メスはあまり鳴かないのだそうだ。
ぴいいちろうは朝から大きな声でよく鳴く。
きく所によると、カナリアの鳴き声というものはまるでお話をしているようで、鳴くというよりさえずるといった方がいいのだそうだが、ぴいいちろうは「ぴーっ」だったり「モケケケ!」だったり、あまり美しいとはいえない不器用な声で鳴く。
美しいレモン色のぴいいちろうと、お蕎麦色の…美しいお蕎麦色のとかちゃん。
ペットを飼うのをいやがっていた夫が、餌やりや鳥かごの掃除をしてくれる。ヘビースモーカーなのに、以来ずっと禁煙中だ。今までありえなかったことである。小鳥効果!越後製菓!
夜は冷えるので、鳥かごに覆いをしなければならない。そこで、古くなったカーディガンを用意し、「ぴいいちろう」と可愛く刺繍などしたりして、ちょっとした母親気分を味わったりしちゃったりなんかして…。

そんなこんなでぴいいちろうがやってきて一月ばかり経ったある朝のこと。いつものように、水を換えてあげようと水入れを洗っていると、後ろでコトッと何かが落ちる小さな音。
特に気にすることもなく、水入れを鳥かごに装着しようとする私がみたものは…
ぴいいちろうの足元に、た…卵が!!!

ぴいいちろう、メスだったよ。どうりで鳴き声がおかしいはずだ。
オスカルが女だと知った時のフェルゼンもこんな気持ちだったのだろうか…。初めから女として出会っていれば…或は二人の関係も違うものになっていたのか…ぴいいちろう…もう…会うことはない…な?

卵を産むという生なましい現実に直面した繊細な夫は、大いに引き、「メスかあ…チッ」とあまり世話をしてくれなくなったよ〜ん。
初めあんなにこだわっていた、名前をつけるチャンスが訪れたのに、付けてもくれやしない。

新しい名前募集中!!ビシッ!!

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