日々好んで読んでいる本のただの感想です。
第11回 斉藤美奈子「趣味は読書。」(2003年 平凡社)

 現在最も毒舌ならぬ毒筆の持ち主といえば、斉藤美奈子さんをおいて他にはいないでしょう。

 『読者は踊る』を読んで感銘を受け(今でもこの本が一番です)、次々と読んできましたが、出す本出す本の視点の斬新さ、 論旨の鋭さに潜む知識のバックグラウンドの広さに驚くばかり。文学から、女性論、歴史、科学、思想、宗教まで盛り沢山です。

 谷崎潤一郎から発する文章読本を研究した『文章読本さん江』(小林秀雄賞を受賞)、吉本ばななや林真理子、村上春樹、村上龍などを論じた『文壇アイドル論』、 明治〜現代の女性の生活と生き方を示した『モダンガール論』、その流れをくんで女性の食への工夫を描いた 『戦下のレシピ〜太平洋戦争下の食を知る』などなど。この他にも多数あります。

 『趣味は読書。』は「ベストセラーの読者はどこにいる?」という疑問からはじまり、斉藤さんが「読書代行業」としてベストセラーを読み、評論したものです。 その内容は抱腹絶倒。ここまで言うとは…とその過激さと勇気に感心します。

 まず、巻頭の「本、ないしは読書する人について」という論文だけでも必読! そもそも本は購買層の少ないマイナーな商品で、本を読む人は人口の一割にも満たない、 ということを統計資料を駆使して解説します。 そして、読者を分類していきます。

 この分類が面白い!その毒筆ぶりはこんな具合です。
「読書とスポーツを混同する武闘派までいて、 声に出して本を読めだの、本に三色ボールペンで線を引けだの、 人の世話まで焼きはじめる。」
ベストセラーを読むのは読書ビギナーの「善良な読者」であるということです。分類によると私は「読書依存症」の「邪悪な読者」でしたが、斉藤さん自身、「「善良な読者」の資質をまったく欠いている」そうなので安心しました。

 こんな調子で本題のベストセラー評論に入るのですが、読んでいて吹き出すくらいおかしいです。『日本語練習帳』、『光に向って100の花束』、 石原慎太郎『老いてこそ人生』、江國香織、辻仁成『冷静と情熱のあいだ』、『五体不満足』の評論が私のベスト5です。もちろん原本は読んでません。 また、西尾幹二著作が『国民の歴史』と『新しい歴史教科書』と 二つも入っていて意外に評価が高いのも面白く感じました。


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