日々好んで読んでいる本のただの感想です。
第4回 内田百間「阿房列車」(2002年 ちくま文庫)
 私は、友人のKさんとSさんと一緒に「知らないところに行くツアー」というのをたまにおこなっています。 興味深いバス停の名前を見つけては、予備知識なしにふらっと行くのです。今まで「極楽寺」、「犬石温泉」などに行きました。
「極楽寺」には、いつまでたっても着かず、だんだん山の方へ連れて行かれました。 なんと筥崎宮(福岡市の有名な神社)発祥の地だそうで、ひと気のないお寺でした。
「犬石温泉」は到着後、地元の人に尋ねると、皆「さあ?」という感じだったので探したら、廃虚でした。 昔は温泉だったらしいけれど、どう見ても銭湯のようでした。 湯にも入れず、仕方なくうどん食べて帰ってきました。次回は「山の神」の予定です。

 前置きが長くなりましたが、「阿房列車」とは、「あほうれっしゃ」と読みます。内田百間は、なんにも用事がないけれど、列車にのって旅をします。 同行者はヒマラヤ山系と呼ばれる若い男性です。 着いたら観光なんてせずに、旅館へ行って、仕方なく風呂に入ったり、酒を飲んだりします。

 このどこが面白いのかというと、百間先生とヒマラヤ山系氏との会話です。

「考えて見たのだが」
「何です」
「歯は厄介だね」
「どうしてです」
「この前歯の事さ」
「痛みますか」
「痛くはないけれど、さわれば痛い。もとから歯なぞ無い方がいい」
「そうは行きません」
「僕の知っているお年寄りは、歯が一本もなくて、歯茎で牛肉の切れを噛み切り、雲丹豆をかじる」
「ほんとか知ら」
「実例が二人ある。二人ともお婆さんだ」
「女だからでしょう」
「おかしな事を云うではないか」
「はあ」
「そもそも歯を以って物を噛むと云うのは、あれは前半は本能だが、後半は迷信だ」
「なぜです」
「嚥下の前提として咀嚼すると云う事に合理的な必然はない」
「何の事だか解りません」

このように噛み合わず、盛り上がらない会話がしばしば現れて吹き出してしまいます。
それ以外にも、旅の途中であっちこっちに飛ぶ百間先生の思考が面白いです。

 10月より、ちくま文庫より内田百間集成全12巻が毎月1册づつ発売されています。 『阿房列車』は1巻目です。これから1年間、毎月1冊の楽しい買い物が出来ます。
内容の詳細は、http://www.chikumashobo.co.jp/tsuki/tsuki7.html(筑摩書房)にありますので見に行ってください。とっても面白そうなんですよ!


トップページへ