第6回 神蔵美子「たまもの」(2002年 筑摩書房)

 神蔵美子さんといえば、ずいぶん前に『たまゆら』という著名人の女装の写真集を出されていて、 その中の作家島田雅彦氏の女装姿が見たくて立ち読んだ覚えがあります。

 『たまもの』は夫から別の男性へと移り変わる自分の恋愛生活を記録した写真集&日記です。 なぜこの本を衝動買いしたかと言えば、坪内祐三さん(元夫のほう)の私生活を垣間見たかったからなのです。

 坪内さんは文筆家です。読まれる書物は明治〜大正〜昭和期と、私の興味ある分野と重なる部分があるので、勝手に親近感を持っていたのです。 読書日記(『三茶日記』本の雑誌社)によると、いつも書店や古書店、古本市を流し、探していた本を購入する日々で、 ああ私も毎日神保町を徘徊したいな〜と遠く九州からうらやましく思っていたのでした。 きっと本にうずもれて生活しているに違いない、本棚にも面白そうな本が沢山あるはずだ、 と想像してました。実際、仕事部屋の写真がいくつかありました。

 坪内さんの後ろに写る本棚の本の背表紙がとても気になり、目を凝らして見て、「大宅壮一全集があるなあ」とか、 「やはり明治、大正の文献が多いな」とか、「このあたりの資料は図書館からコピーして来たんだな」とか、 「本がうずたかく積み重なっているけど、きれいに整頓されているようだし、 きっと几帳面で何がどのあたりにあるのか把握しているんだろうな」 とかいろいろ観察してしまいました。
 それに物を書くのは床に座る文机でした。これも理想です。机とイスでは落ち着かないのです。 文机の背後には疲れたらそのまま寝れるようなソファー。最高の環境です。
 著名人の本棚の写真が載ってる『本棚が見たい!』という本で、 内藤陳氏の本棚程の衝撃はなかったですが、 人の本棚って面白いですね。

 話が大幅に本棚のほうへとずれていってしまいましたが、 神蔵さんは写真と文章で自分をさらけだしました。私には到底出来ません。しかし、 神蔵さんの恋愛には共感できませんでした。『たまもの』の書評はネット上でいろいろありますので探してみてください。

 それにしても神蔵さんのまわりの人達って華やかです。 アラーキーも人の良さが表われているし、 森村泰晶さんも美しく写っています。坪内さんと末井さん(現在の恋人)を撮った写真にもそれぞれの人柄が出ていて、人間を写すのが上手な人だと思いました。


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