このコーナーでは、ポーランドが生んだユニークな作家(兼画家)ブルーノ・シュルツの作品を紹介してゆきます。私の拙い文章でどれだけシュルツ作品の魅力をお伝えできるかどうかわかりませんが、おつきあいいただければ幸いです。なお、文中の引用はすべて新潮社の「ブルーノ・シュルツ全集」(工藤幸雄訳)からのものです。
第2回 シュルツの美術作品

 テレビを見ていて、ブルーノ・シュルツはきっとこんな感じの人物だったんじゃないかな、と思う人がいます。 それは「アリーmyラブ」に出てくる、主人公アリーの同僚弁護士ジョン・ケージです。頭のきれる、敏腕弁護士でありながら、 時に「妙ちきりん」「変人」「小男」と揶揄されるジョン・ケージ。才気あふれる人物でありながら、 たまに劣等感に足元をさらわれるジョン・ケージ。恋愛に不器用なのに結構もてるジョン・ケージ。 シュルツに関する評伝を読んだり、数少ない写真を見て私の頭のなかに結ばれたブルーノ・シュルツ像は、 そんなジョン・ケージをいくぶん病身痩躯にした感じです。特に共通点として挙げたいのはある種の子供っぽさで、 例えばシュルツの小説に出てくる食べ物は子供の好みそうなものばかり(ケーキやパイ、きれいな色のシロップなど)だし、 シュルツの観察眼の細かさは幼児のそれを思わせます。 自分の飼っていた蛙の葬式を職場でやってしまうジョン・ケージといい勝負です。

 シュルツの自画像を初めて見たとき、私は「この人はそうとう変わった人に違いない」と思いました。 それまで、そのように前屈みで上目遣いの自画像というものを見たことがありませんでした。 ポーランドで発行されたシュルツ記念切手(1992年、生誕100年のとき)にも、その自画像が使われているのですが、 「せっかくの記念切手なんだからもっとこう堂々とした顔を載せればいいのにー」と思ってしまいました。

 ポーランドの批評界ではシュルツを語るのに「神話化」「グロテスク」「マゾヒズム」 という3つのキーワードがよく使われるそうです。小説を読む限り「マゾヒズム」というのはあまり感じられないのですが、 美術作品を見ると「ああなるほど」と思います。シュルツ唯一の版画作品集「偶像賛美の書」には、 女王様然とした女性(脚線美を誇らしげに見せ、手に鞭を持っている)と、彼女の魅力にひれ伏す男たちが描かれています。 小説作品から感じられる子供っぽいシュルツとはまた違う一面が見られます。

 この「偶像賛美の書」はガラス陰画という珍しい手法で作られています。 板ガラスにゼラチンをひいて線を刻むというものらしいのですが、几帳面で手先の器用だったシュルツらしい手法だと思います。 1920年に完成し、販売にも向けられましたが、売上収入は微額にとどまったということです。



トップページへ