このコーナーでは、ポーランドが生んだユニークな作家(兼画家)ブルーノ・シュルツの作品を紹介してゆきます。私の拙い文章でどれだけシュルツ作品の魅力をお伝えできるかどうかわかりませんが、おつきあいいただければ幸いです。なお、文中の引用はすべて新潮社の「ブルーノ・シュルツ全集」(工藤幸雄訳)からのものです。
第6回 大鰐通り

 「大鰐通り」はシュルツの作品のなかでは一番知られているものだろうと思います。というのも人形映画作家のクエイ兄弟によって映像化されていて(タイトルは「ストリート・オブ・クロコダイル」)、それが若い人たちの間でも結構人気があるのだそうです。

 クエイ兄弟は、1947年にアメリカで生まれ、ロンドンで美術を学び、ヤン・シュワンクマイエル(チェコの人形映画作家)に影響を受けて1979年から人形映画を製作しています。題材として、シュワンクマイエル、ヤナーチェク(ボヘミアの作曲家)、ローべルト・ヴァルザー(スイスの作家)などマイナーながらもしぶいものを取り上げています。
 「ストリート・オブ・クロコダイル」はストーリーを忠実に映像化したというよりは、原作を読んで湧き上がるイメージを映像にしたという感じです。雨ざらしになっていたかのような人形たちが、一切の色彩が消えうせた街を動き回る様子は、人形映画ならではのポエジーと美しさに満ちていて、見応えがあります。

 それでも、シュルツのファンとしては、やっぱり原作のほうがわくわくさせられます。
 奇妙な街を書かせたら右にでるもののないシュルツですが、「大鰐通り」とは、ある街の周辺の一部に寄生的に発生した、安物の粗悪品でできあがった怪しげな界隈であり、「現代のために、また大都会の腐敗のために私たちの街が開いた租界であった」と書いています。
 この作品だけでなく他のものも読んでいて思うのですが、シュルツには古いものに対する愛着があったようです。旧市街に対する新しい地区としての「大鰐通り」の退廃を描き、しかも「人間という材料の安価なこの街(大鰐通り)では奔放な本能もなければ、異常なほのぐらい情熱も入り込む余地はない」と書いています。

 シュルツの作品に常につきまとうノスタルジックな雰囲気を、クエイ兄弟はみごとに映像化しています。


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