♪♪♪♪♪ 第2回 深夜映画が楽しかった頃 ♪♪♪♪♪


 就職してはや10年が過ぎた。今では毎日11時に寝て、7時に起きる生活だ。「ジャズ・クラブ」や「ワールド・ロック・ナウ」を聴きながら床についても最期まで聴けたためしがない。

 学生のときは深夜にテレビをよく見ていた。特にRKBの深夜映画にはとってもお世話になった。ミニシアターでしか上映されない映画や、福岡で上映されなかった映画を放送してくれて、私に映画の楽しさを教えてくれた。忘れられない映画はたくさんあるけれど、特に好きだったのは「アパートメント・ゼロ」という映画だ。ビデオに録画して、岡山にも持ってきて何度も観た。

 あらすじはというと、舞台は1988年のブエノスアイレス。主人公のエイドリアンはCINE YORKという貧乏映画館を経営している。この映画館の名前からも分かるとおり、エイドリアンはイギリス人で朝食時はティーセットで紅茶を入れ、シックな調度品に囲まれて暮らしている。暮らしぶりはとても孤独で、唯一の家族である母親は精神病院に入院している。
 映画館の経営は苦しく、ある日彼は家賃を浮かすためにルームメイトを募集する。そこに現れたジャックというアメリカ人男性をいたく気に入り、共同生活を始める。それまで排他的で他人を信用することのなかったエイドリアンは次第にジャックに惹かれてゆく。
実はジャックは軍政下で雇われていた、反政府分子を抹殺するための外国人傭兵だったという過去があり、エイドリアンと共同生活をしながら連続殺人事件を起こしたりする。
 エイドリアンは次第にジャックの過去について感づきはじめ、ある事件をきっかけに殺人鬼であるジャックの正体を知ることになる。ところがその時すでに彼はジャックのいない人生には耐えられなくなっている自分に気づく。
 共に国外に逃亡しようとする2人。しかし、エイドリアンは母親の死や度重なるストレスのためか精神を崩壊させていく。ついにジャックに銃口を向け、もみあった末、引き金を引いてしまう。エイドリアンはジャックの死体を椅子に座らせ、2人分の朝食を用意し、紅茶を入れ、彼との共同生活をいつものように始める。

 ラストシーンでエイドリアンの映画館が、以前は古典的名画専門だったのに、ポルノ映画専門になってたのが、ショックだった。ジャックの革ジャンを羽織り、カメラ目線でこちらを見つめるエイドリアン。「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグのカメラ目線に匹敵する迫力だった。

 エイドリアンのジャックに対する気持ちは恋愛感情なのか、友情なのか、私にはよく分からない。セクシュアリティの研究者・伏見憲明氏は愛情だと言っているけれど。

 この映画を録画した私のビデオテープが最近、画質が劣化したのでアマゾンで輸入版を購入した。届いたビデオを早速観てみる。新しいし、コマーシャルも入っていなくて良いあんばいだ。日本語の字幕スーパーが無いけれど不便を感じない。日本語字幕を覚えるほど繰り返し観た自分に感心した。

 ちなみにエイドリアン役のコリン・ファースは最近「ブリジット・ジョーンズの日記」のダーシー役などで人気者になった。私としては、コリンはカルトな映画で風変わりな役を演じている時、一番真価を発揮していたと思う。でもコリンも40代半ばで、すっかり大人の魅力と落ち着きを身に付けている。もうカルト路線への復帰はないだろうなあ。


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